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名古屋地方裁判所 昭和45年(行ウ)13号 判決

原告 二村商事株式会社

被告 昭和税務署長

訴訟代理人 山田厳 外三名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  原告主張の経緯で本件課税処分がなされたことおよび本件課税処分における被告主張の所得金額中、原告申告所得金額、右申告額に加算したたな卸もれ、借地料否認についてはそれぞれ当事者間に争いがない。そこで被告主張の雑収入(借地権)計上もれを加算したことの適否について判断する。

二  原告が訴外善三郎から、昭和二四年ころ本件土地を賃借し、右地上に本件建物を建築所有して右建物を訴外組合に賃貸したこと、昭和三九年ころ、訴外組合と賃料値上げをめぐつて紛争が生じ、原告は同四〇年四月、同組合に対し本件建物明渡請求訴訟を提起したところ、同四二年一一月二二日に至り裁判上の和解が成立したこと、右和解は、訴外組合に対し、同年九月三〇日付で原告が本件建物を五〇万円、訴外善三郎が本件土地を一、六〇〇万円合計一、六五〇万円で売渡することをその内容とするものであり、訴外組合は右和解にもとづき同年一二月二四日一、六五〇万円を支払い、原告は右のうち五〇万円を、訴外善三郎は、一、六〇〇万円を各受領したこと等の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

三  〈証拠省略〉を併せ考えると、前記和解成立当時、本件土地およびその付近地域においては、その地理的位置・環境・交通等の諸状況からみて、借地権についての経済的価値(利益)が相当程度認められ、その設定または譲渡の際に通常、借地権価額相当額の授受の行なわれることが取引慣行として成熟しつつあることをうかがうことができ、またそのころにおける本件借地権の価額が一一、三四〇、〇〇〇円であり、本件土地の建付地としての価額(時価)は二〇、八一九、〇〇〇円であることを認めることができ、右認定を覆すにたりる証拠はない。

以上の諸事実および当時における本件建物価額(時価)が五〇万円であることは格別当事者間に争いないことより考えると、本来、本件土地、建物を時価により譲渡する場合、原告は本件建物の右価額五〇万円および前記借地権価額一一、三四〇、〇〇〇円の対価を取得できるのに対し、訴外善三郎は本件土地の代価として、右建付地としての価額から右借地権価額を差し引いた九、四七九、〇〇〇円をその対価として取得できるだけであるところ、原告は本件譲渡にあたり、右建物の代価として五〇万円を取得したに過ぎず、本件土地借地権価額相当分については何らうるところがないのに、訴外善三郎は本件土地代価として前記九、四七九、〇〇〇円を超える一、六〇〇万円を取得したものであつて右一、六〇〇万円中には本件借地権に相当する価額六、五二一、〇〇〇円(一、六〇〇万円-九、四七九、〇〇〇円)が含まれるものということができる。このことは、原告株式会社が、同法二条一〇号にいう同族会社であり、訴外善三郎が原告会社代表者の父であること(当事者間に争いがない)と併せ考えると、原告は本件和解成立にあたり本件借地権について何等対価をうることなくして、これを右善三郎に対し放棄したものであるということができる。

ところで、同法一三二条一項の趣旨とするところは、同族会社が通常の経済人の選ぶ行為形態としては、不合理であると認められる行為計算すなわちことさらに不自然、不合理な行為計算をとることにより、不当に法人税を回避・軽減する結果となる場合に、かかる行為計算を否認して、これを合理的な行為計算に引き直して課税するというものである。

而して原告は本件和解において本来自己の取得すべき本件借地権価額相当分六、五二一、〇〇〇円について、訴外善三郎に対し、本件借地権を放棄し、右対価を取得しないことは経済人たる原告としては極めて不自然・不合理なものというべきである。

従つて、原告のなした本件借地権放棄は、不自然・不合理な行為計算として法人税法一三二条一項により否認さるべきであり、原告は通常の経済人が行なうであろう合理的な取引に従つて、前記借地権価額相当の六、五二一、〇〇〇円を取得して本件借地権を放棄したものとする所得計算が可能であるから、被告が右借地権相当額の範囲内で雑収入(借地権)計上もれ五、一二七、五〇〇円を加算したのは適法である。

原告は、本件和解において消滅する本件借地権の対価は本来存在しない旨主張し、その理由として、借地権設定に際し権利金の授受にかえて、賃料を権利金授受があるときより割高な相当額(年割が更地価額の八%)と定めて支払がなされている場合、その後地価の上昇に賃料をスライドさせて引き上げなかつたとしても、借地人には借地権消滅につき対価をうけるような経済的利益はないとして課税上の取扱がなされているとするが、かかる取扱が一般的に行なわれていることを認めるにたりる証拠はない。また、借地権設定にあたり権利金の授受がない場合、賃料が権利金授受のなされる場合に比し割高であることは、借地権価額を.滅少させる事情であるということはできてもその存在を否定するものではないと解すべきであるから原告の右主張は理由がない。

四  ところでまた、原告は、本件和解は本件土地・建物を一括して一、六五〇万円で譲渡する趣旨のもので、土地所有者・建物所有者側の協議により、本件借地権賃料等を勘案して土地所有者たる訴外善三郎一、六〇〇万円、建物所有者たる原告五〇万円と配分するのが妥当とされたのであるから、右建物代金五〇万円のうちに借地権者の利益が全く考慮されていないとは即断できない旨主張するが、前記本件借地権の時価に照らし、右五〇万円中に借地権者の利益が考慮されたとは到底いえないし、たとえ考慮されたとしても極めて少額であつて、先の認定を左右するものではない。

また、原告は訴外善三郎が本件土地代金により取得する代替地を権利金なしで賃借できることになつていたから、本件放棄がなされたと主張し、それに沿う原告代表者尋問の結果は存在するけども、右は措信し難く、その他に右主張事実を認めさせるにたりる証拠はない。

五  さらに、原告は本件課税処分は信義則に違反して違法である旨主張するが、〈証拠省略〉を総合すれば、原告の関与税理士大羽三郎が昭和四二年一一月ころ名古屋北税務署法人課々長補佐杉山三四郎に、本件譲渡について相談したことおよび同四三年六月上旬ころ所轄昭和税務署法人税課審査係長兵藤三代治に同様相談したことを認めることができるが、右大羽のなした各質問は口頭によるものであり、また、右杉山、兵藤の回答は口頭による抽象的意見にとどまり、更地価額、賃料の正当性および借地権認定の可能性については意見陳述を留保しているものと認められるから、格別右処分は信義則に反するということはできないので、原告の右主張は採用できない。

六  従つて、本件更正処分ならびにこれを基礎としてなされた本件過少申告加算税賦課決定処分は、その余の判断を俟つまでもなくいずれも適法である。

七  よつて、原告の本訴請求は、いずれも理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 山田義光 下方元子 樋口直)

別表〈省略〉

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